ON-PAM勉強会「文化芸術における法律」(2018/9/14)

表題の勉強会に参加しました。

といっても会場は東京のこまばアゴラ劇場のため、zoomを介しての参加。

予定が重なっていたため1時間遅れの参加、さらにカフェのWi-Fiを利用したので途中何度もぶつ切れに遭いながらも、必死で拝聴。

講師の小林真理さんの人柄なのか、エキサイティングで刺激的な会であることが画面越しにも伝わった。

ちなみにon-pamというのは、Open Network for Performing Arts Manager=舞台芸術制作者オープンネットワークの略で、”アーティスト・芸術団体と観客の間を繋ぐ全国的・国際的な会員制ネットワーク”です。


▽on-pam公式サイトでの紹介はこちら


▽勉強会の趣旨


昨年、文化芸術振興基本法が改正(文化芸術基本法)されました。また、今年(2018年)の6月には、国際文化交流の祭典の実施の推進に関する法律や、障害者による文化芸術活動の推進に関する法律が相次いで成立・施行され、文化芸術を巡る法制度が整備されつつあります。

国際文化交流の祭典の実施の推進に関する法律

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律


政策提言調査室では、これら法制度についてあまり現場で認知がなされないままに成立・施行されているのではないか、そもそも法律によってどのように環境が変化していくのかを知る/考えていく必要があるのではないかという議論がなされ、勉強会を企画するに至りました。

今回は東京大学大学院教授で、文化政策がご専門の小林真理先生を講師としてお招きし、現場が抑えておくべき基礎的な理解についてお話しいただきます。


オリンピック・パラリンピックの開催にあたっては「文化プログラム」を実施することが義務付けられており(ロンドンオリンピックでは4年間で約17万にも上る文化プログラムが実施された)、日本でも2020年に予定されている東京オリンピック・パラリンピックに向けて、水面下で着実に企画が進行している。

今年特に大きく報道されたのが、先に亡くなった俳優の津川雅彦氏が座長を務める「ジャポニスム2018」だろうか。香取慎吾がパリのルーヴル美術館で個展を開催するということが大きく報道され話題となった。

これらの問題についてはこの記事の主眼ではないので割愛するが、オリパラに向けて、現場の人間からは疑問を抱かざるを得ない事態が進行していることは確実だろう。

なお、国を挙げてのお祭り騒ぎをしたあと、つまり2021年以降の日本について、お祭り騒ぎを主導している政府関係の人間や利害を得る人間が何ら責任を取らないということはこれまでのあらゆる出来事からも十二分に想像がつく。

そもそも、リーディングミュージアム構想をはじめとした「稼ぐ文化」(文化で稼ぐ)を提唱する彼らだから、純粋な思いで国の文化政策を考えているとは到底思えない。


どうしても、ブラジルでの博物館火災が頭をよぎる。リオオリンピック後のブラジルでは財政難が続き、インフラ整備を怠ったために博物館が全焼して貴重な文化財等が失われたのだ。

なんだか知らないうちに政治家や官僚が法律をつくり、現場では歪みが生まれる。

ではいま、政治家や官僚はどのように現状を捉え、法律を策定しているのか。そのことを知りたいと思って勉強会に参加した。

先に書いたように、開始から1時間が過ぎてからの参加となったのだが、のっけから、「議員立法」だの「立案」だのといった単語が飛び出してきたので、あぁ、期待したとおりの内容だと思い俄然引き込まれた。


以下、聞き取れる範囲(間違いや微妙なニュアンスの違いがあるかもしれません)で聞き取ったポイントとなる点を羅列したい。

※()内は私的意見です。


・社会保障制度と比べて文化芸術の必要性を文化庁は説明することができないから、制度の名前をコロコロ変えることで予算を引っ張ろうとする。

(おそらく文化庁以外の省庁も同じであるが、概算要求を作成する際、既存事業ではなく、新規事業の方が重きを置かれやすい。”新しく”取り組むということが大事なのだ)


・文化芸術はどこまでをカバーするか?

(「文化芸術」という言葉の定義はなく、人によってその認識は異なる。)


・「文化芸術」は、文化庁がカバーする領域を端的に表す単語で文化庁自身が定義した。

ゼロ年代以降の言葉。

(文化行政と教育分野の密接な関係上、文化庁と文科省の住み分け・連携強化がこれからの課題。なお、文化芸術振興基本法が議員立法により成立したのが2001年、それを踏まえた文化芸術基本法が2017年に成立)


・滋賀県はアールブリュットに力を入れてきた。

(社会福祉法人グローが運営するボーダレス・アートミュージアムNO-MAがありますね)

・たとえば助成金への要望に関しても、団体でまとまって要望していくことが大事。自団体の利益だけではなく、全体の利益を考えていることをみせる。昔は個別に陳情していたが…

(業界全体でまとまっていくことの必要性について。これ。緊急!ダンスミーティングの話にとリンクする話なので、JCDNとかあの場にいた人が聞いていたらいいなぁと思った。ちなみにわたしは、舞台芸術関係の人が省庁へ陳情に行っているのかどうかは知らないが、市民系・民主系団体が9月に政府交渉に行っていることは知っている。やはり業界でまとまって陳情に行くというのは強い。そもそも当事者が陳情に行かなければ見えない問題というものが多々ある)


・昔、ある公共劇場の激務が問題になって助成金を切られそうになった。しかしなぜ激務になったかというと助成金を得たから。助成金をもらえることで事業の実施につながるが、もらえたらもらえたで、現場はハードワークになることがある。

そこで文化庁に、助成金のあり方を考える必要がある、運営費に対しての助成が必要だと提案したら、それは無理と即答された。しかし、そのスキームを考えるのが本来文化庁の役割では。

(どこの劇場の例かは知らないが、どこでも同じ事態になっていることは容易に想像がつく。文化庁の助成金で助成対象費用として認められる項目のおかしさが多々あって、その穴を埋めるために別の部分で無理をしなければならなくなることがある。たとえば一番おかしいと思うのは、事務局運営費が助成対象として認められないこと)


・(自治体は)いまは「芸術振興」そのものから離れつつある。「住民のために」「障害者の〜」等の理由づけを必要としている。「子ども向け」は比較的助成されやすい環境にある。

(「芸術」の定義だとか好みは人それぞれなので、芸術性の高さを評価して助成することは日本の行政の力ではできないということだと思う。また、日本における文化芸術振興のお粗末さから言って、市民レベルで拒否反応が起こることが容易に想像される)


・(官民による助成について)アメリカやドイツは助成団体が多くて、独自の基準に基づいて助成事業を行なっている。ドイツでは州ごとに様々な助成制度があり、また、重層的・複層的な助成制度になっていて若年層以外に向けた助成もあるため、アーティストは継続的な活動を行いやすい環境にある。


おそらく、欧米では「助成」制度についての認識も日本と違っていることが大きいのではないかと思う。本来、お互いに対等な関係であるはずなのだが、日本ではどうしても、助成をもらう側は助成を出す側に対して遠慮が大きい。


このブログを書くために検索をかけていて、全国大学博物館学講座協議会(全博協)シンポジウム基調講演の報告のツイートまとめを見つけたので、最後に貼り付けておく。

博物館関係者も、舞台芸術関係者も、同じことを言っているなぁ。

この国の文化政策のよりよき発展を願う者の一人として。

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