資本主義は社会主義の夢を見るか?

最近、「アメリカにおける社会主義の復権」という話をよく聞く。

2018年の米中間選挙で現職を打ち破り、史上最年少の下院議員となった民主党のオカシオ=コルテス(アメリカ民主社会主義者のメンバーでもあり、2016年のアメリカ大統領選の際にはサンダースの選挙事務局でオーガナイザーを務めた)や、民主社会主義者を自認するバーニー・サンダースが注目を集めるなど、たしかに勢いはある(ただ、厳密には彼らは「社会民主主義者」であり、後述するが、彼らの言う「福祉の充実」はおそらく北欧型の「社会民主主義」で、マルクスの定めた「社会主義」とは異なる)。


▶︎アメリカの若者に広がる ソーシャリズム なぜいま社会主義?|NHK WEB特集(2019/10/11)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191011/k10012121891000.html


▶︎資本主義「善より害悪」56% 28国・地域世論調査|しんぶん赤旗(2020/1/22)

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2020-01-22/2020012201_03_1.html

※この記事で紹介されている米大手広報会社エデルマンの発表はこちら


先日閉会した日本共産党第28回大会の結語でも、志位委員長が「ピュー・リサーチ・センター」の調査結果を引用して、「最近、大手世論調査会社「ピューリサーチ」が実施した世論調査(2019年4~5月に調査)では、若い「ミレニアル世代」――23~38歳の半数が社会主義を肯定的に見ているとの結果が明らかになりました」と述べた。

たしかに、DSA(Democratic Socialists of America/アメリカ民主社会主義者)の党員数は、2016年から2018年のわずか2年の間に40,000人以上も増加しているようで、サンダース人気と相まって確実に勢力を拡大している。

ただ、そうは言ってもアメリカ社会をダイナミックに動かしていくには及んでいないだろうし、そもそも「資本主義」の権化のようなあの国で支持される「社会主義」なるものの内容が気になったので、ピュー・リサーチ・センターのデータをみてみた。


▶︎ピュー・リサーチ・センター(2019/10/7)

”In Their Own Words: Behind Americans’ Views of ‘Socialism’ and ‘Capitalism’”

(自分の言葉で:「社会主義」と「資本主義」に対するアメリカ人の見解の裏側)

https://www.people-press.org/2019/10/07/in-their-own-words-behind-americans-views-of-socialism-and-capitalism/


本文を引用する。「アメリカ人の55%が社会主義に対して否定的な印象を持っている一方、42%が肯定的な見方をしていることを発見した。3分の2(65%)は資本主義に対して肯定的な見方をしており、3分の1は資本主義を否定的に見ている」とあり、たしかに、現在の世界を覆っている資本主義に対して否定的な見方が少なくないようだ。


注目すべきは、それらの人々が資本主義と社会主義それぞれのどこを肯定的に、どこを否定的に見ているかどうかだ。


[社会主義に否定的な印象を持っている人の意見]


1.労働倫理を弱め、政府への依存度を高める(19%)

ー私は個人の自由と選択を信じている。社会主義は、人々がイノベーションを起こし、成功のはしごを登るインセンティブを殺す。(53歳男性)


2.歴史的および比較上の失敗(18%)

歴史的にーベネズエラやロシアなどの国で、社会主義がいかに失敗したかに基づく意見。


3.一般的な否定(17%)


4.民主主義を損なう/米国には適さない(17%)


あとには、資本主義のほうが優れている(4%)、社会主義と資本主義の融合を望む(2%)と続く。


[社会主義に肯定的な印象を持っている人の意見]


1.社会主義がより公平で寛大な社会をもたらす(31%)


2.社会主義は資本主義に基づいて改善するものだから(20%)

ーこの意見を上げる中には、米国はすでに政治プログラムの中で社会主義的な側面を持っているという人も存在し、社会主義と資本主義の融合を望んでいる人も存在する。


3.歴史的および比較上の成功(6%)

ー社会主義に対して否定的な見方をする人の中には、ベネズエラのような国と結びつける人がいる一方、社会福祉の充実したデンマークやフィンランドを社会主義の成功モデルとして考える人もいる。社会主義を肯定的に見ている人は、社会主義がヨーロッパでどのように機能したかを挙げる人が多い。


ほか、資本主義よりも優れている(4%)、一般的な肯定(4%)と続く。


では、現在、多くの人がこの社会が未来永劫続くと信じて疑わない資本主義に対する意見はどうだろうか。


肯定的に見る人の多くは、資本主義が個々の金融成長の機会を提供している(24%)、一般的な肯定(22%)、アメリカに不可欠(20%)とする一方、いいシステムだが完璧ではない(14%)≒他のシステムとの融合を期待するとする意見も肯定側に含まれている。

やはり資本主義大国であるアメリカらしく、資本主義がアメリカの経済力を向上させ、資本主義は自由の維持に不可欠であると言及する傾向がある。


一方、資本主義を否定的に見ている中では、資本主義が不公平な経済構造をつくり出し、少数の人々またはすでに富んでいる人にのみ利益をもたらす(23%)という意見が最多。

次に、資本主義には搾取的で腐敗した性質があり、多くの場合、人々や環境を傷つける(20%)といった見方や、企業と裕福な人々が政治問題についてもあまりにも多くの力を持っていることによって、民主的なプロセスを弱体化させる(8%)、資本主義が機能する可能性があるとすれば、よりより監視と規制が必要である(4%)といった見方が続く。


これらの見立ての多くは、資本主義システムがこれだけ根付いた社会であるにも関わらず、生物学的本能とも言うべきか、正しいように思う。

資本主義以前は、封建制社会であった。そこでは階級がはっきり区別され、自由な職業選択や自由な経済活動を営むことは多くの人には許されていなかった。

労働によって賃金を得て、自由な経済活動ができる。そういう社会を資本主義は実現させた。

しかし一方で、何ら制御を加えられない資本主義は暴走する。

そこでは児童労働が行われ、文字通り寝る間も食事する間もなく、人は機械のペースに合わせて働くことを求められた。まさに人は歯車の一部(産業革命時の機械は恐ろしく巨大だ。少しの不注意によって命を落としただろうことが容易に想像される)であり、労働者ではなく単なる労働力として存在価値を与えられた。

そうした中で、児童労働の禁止や労働時間の短縮といった労働者としての権利を求める闘いが行われ、まさに民が主導の「民主的改革」によって、皮肉なことに、資本主義は現在まで生きながらえることができたのだ。

資本主義なくして民主主義は発展せず、民主主義なくして資本主義は発展せず(民主的な改革がなければ、獰猛な資本主義は人間を搾取し続け、最後には己の身を喰らって破局へと至っただろう)。


加えて大切なことは、マルクスは、そのような資本主義の研究・発展の先に社会主義・共産主義の未来を見たことだ。

この調査結果からもわかるように、社会主義を肯定的に見る中には、北欧型の福祉国家ー修正主義や社会民主主義と言われるものを求める意見が多い。

おそらくこの考え方は、日本共産党が綱領に明記する「(社会主義・共産主義への発展の前に)資本主義の枠内で解決する」段階の問題であるし、特にアメリカのように国民皆保険の制度もないような国では、まずはこの分野での改善が求められていることは理解できる。

改悪が続くとは言え、日本の社会保障制度も一定の水準にまでは達していたはずだ。

前述したように、民主主義的な改革によって達成されてきた事柄は多く、すでに今、資本が制御できないモンスターとして暴れ回っているという状況とは異なり、多くの国では一定の社会保障・福祉が制度として機能している。


そのことを思えば、多くの人が、今のような社会が未来永劫続くと考えることは理解できるのだが、資本主義が存在する以上、資本の暴走とそれを制御しようとする政治・民主主義的闘いはいたちごっこが続くだけだ。

そのいたちごっこを終わらせるための改革が、「生産手段の社会化」だ。

資本主義社会においては、大量生産・大量消費によって資本家は利益を得ていると思われているし、それを全否定はしないが、マルクスが資本論で明かしたのは、「資本家は労働者の生み出す剰余価値によって利益を増やしている」ということだ。

つまり、労働者の提供する労働力に対して相応の対価を払わないことによって、資本家は利益を生み出している。


マルクスは、物を生産するための原料(=労働対象)と、工場や機械など(=労働手段)のことを「生産手段」として定義し、これらが人間の労働力と結合することによって生産物が生み出されるのだが、その生産手段を資本家が一手に握っている状態では、労働者と資本家、被雇用者と雇用者の力関係は対等ではない。

本来であれば、会社の社長であっても、その他役職にあっても、管理職以外の労働者であっても、それは職能の違い、役割分担の違いというだけで、関係としては対等であるべきだ。

従業員がいなければ、社長は商品を生み出すことはできない。


「生産手段の社会化」をイメージできないという意見に対して、「協同組合」が例に話されることも多いが、「生産手段の社会化」は、この社会においてまだ誰も見たことのない到達点であって、組織によってどのような形態をとるかは一律に決められるものではない。

ただ重要なことは、組織内における労働力の搾取をなくし、雇用者と被雇用者が対等な関係で働くことのできる環境をつくり出すことだ。


資本の暴走とそれを制御しようと働く政治・民主主義的な力のいたちごっこから抜け出るエポックメイキングな出来事が起こることを祈る気持ちだが、口を開けて待っているだけではつまらない。

おそらく、資本主義も夢見ている。

いつか自分自身を乗り越える社会が現れ、その役目を終える日が来ることを。


※間違っていることがあれば教えてください。

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