あらためて、"One Love Manchester"について

(はてなブログから転載/2017-08-29)


2017年5月22日、イギリスのマンチェスターで行われたアリアナ・グランデのライブ会場でテロ事件が発生。

犯人を含む23名が亡くなり、120名以上の負傷者を出す惨事となった。

テロが起こったのはライブも終わり、観客が帰りはじめた頃だった。

アリアナ・グランデのライブには多くのティーンが参加しており、迎えにきた保護者も被害に巻き込まれることになる。


英マンチェスター爆発、死者22人に 自爆攻撃と警察 - BBCニュース

【マンチェスター攻撃】犠牲になった人たち 8歳少女や非番警官 - BBCニュース


テロ後のアリアナのツイートが、悲痛だ。

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broken. from the bottom of my heart, i am so so sorry. i don't have words.

(@ArianaGrande)

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このテロが起こったのは決してアリアナのせいではないけれど、自分のライブがテロの攻撃に遭い、こどもも含めた自分のファンが殺され傷つけられたというのは、とても重い責任を感じることだと思う。


アリアナは後日開催される追悼コンサートの前に、負傷したこどもたちを見舞ったという。

わたしはちょうどこのとき、児童・青少年演劇の世界的なフェスティバル"CRADLE OF CREATIVITY"に参加すべく南アフリカのケープタウンに滞在しており、BBCのニュースでこの事件を知った。

日本にいるときよりもイギリスが身近に感じたし、テロ事件の怖さが身に沁みた。


その後、日本に帰国して、このテロ事件を追悼する"One Love Manchester"がYoutubeで中継されると聞いて、リアルタイムで視聴した。

出演するゲストの中で曲を知っているのは元オアシスのリアム・ギャラガーとcold play、ケイティ・ペリーくらいだった。

観客の多くが、"FOR OUR ANGELS"=天使たちのためにと書かれたボードを手にしていたことが印象的。


各アーティストごとの動画はBBC MusicがYoutubeにあげている当日にリアルタイムで中継されたすべての通し映像はこちら

セットリストはこちら


リアルタイムでみながら泣きまくったし、何度もみたいまも、泣いてる。

音楽、すごいなあ…と思ったし嫉妬もしてる。

映画だって、911が起こったあとにすぐ、世界中の映画監督によるオムニバス「セプテンバー11」を制作している。

演劇ではちょっとこういう例は知らないなあ。わたしが知らないだけかもしれないので、あったら教えてほしい。


5月22日にテロが起こり、6月4日にこの追悼コンサートを行ったというそのすばやさはもちろん、こうやってすぐに、これだけのアーティストが集まったんだ。

これは本当にすごいことだ。

しかもこのコンサート前日、今度はロンドン市街地で通行人を狙ったテロ事件が発生し、8名が亡くなっている。

日本だってアメリカの世界的な軍事戦略に加担しているし、わたしにすらその責任の一端はあるのだろうと思う。この時代にテロに無関係な人なんて、ほとんどいない。

別の方法で訴えることだって、できたはずなんだ。 でも、こういう手段でしか表現できないところまで追いつめられているんだと、やっぱりそう思う。


マンチェスター出身のスーパースター、元オアシスのリアム・ギャラガーの登場で、観客の盛り上がりが頂点に。

リアムは何も語らず、いきなりこの曲を歌いはじめた。

『Rock 'n' Roll Star』


この曲をまず持ってくるところがさすが。

歌い終わり、リアムはいつものように「ファッキン」という。それがいい。ほんとにくそったれな世の中だ。

そして、『Live Forever』で度々ディスってきたColdplayと共演。リアムは、この共演でColdplayに対する考えをあらためたらしい…。

「あんたの庭のことなんか知らないし、たぶん俺たちは何者にもなれず夢は夢のまま。だけど、それでも永遠に生きていくんだ」というこの曲の歌詞が痛切に響いた。

新曲の『Wall of Glass』も披露。この曲もよかった。


コールドプレイは、リアムが謳わなかったオアシスの名曲『Don't Look Back in Anger』を披露した。

この曲は、テロ事件後にマンチェスターで行われた追悼式の群衆のひとりが歌い出したことで、その場に居合わせた人の大合唱となった。

―怒りに変えてはいけないという思いを共有するために。


この曲を歌ったことについて、コールドプレイは、この追悼コンサートにスケジュールの都合上参加できなかった元オアシスのノエル・ギャラガーに「貸してもらった」と語っている。

追悼コンサートに参加しなかったノエルについてディスっているリアムはいつものことなので気にしないとして、ノエルは、追悼式でこの曲が歌われてすぐ、この曲のロイヤリティを寄付したらしい。


ケイティ・ペリーは自らの代表曲『Roar』を歌った。

'Cause I am a champion, and you're gonna hear me roar!

「愛を選ぶのは簡単ではない、でも、愛は恐怖に打ち勝つことができる。あなたが選んだ愛はあなたに力を与える」と言うケイティのスピーチはすばらしかった。

となりの人に触れて、愛してるって伝えようというケイティの言葉に、観客がわき上がった

この曲の前に歌った"Part of Me"ももちろんすばらしかったけれど、以前は内気で我慢していた人があたしこそが王者だ、わたしの吠える声を聞かせてあげるというこの力強い歌は、いまこそ必要だと思った。このステージのケイティは本当にかっこよかった。


Black Eyed Peasとアリアナ・グランデは、『Where Is The Love?』 を。

911、そしてその後のアメリカによる対テロ戦争に対して問題提起した曲で、まさにいま聞きたいと思う曲。

2011年にアメリカで911が起き、そして2017年のいまもそれらを発端とした争いが収束していないということを直視する。

「人々は殺し合い、死んでいく。こどもたちが傷つき、その鳴き声が聞こえる。(片方の頬を打たれたら)もう片方を出せる? 神よ、わたしたちを救ってください。導きを送ってください。いったいどこに愛があるのだと」


コンサートに参加したアーティストがステージに並ぶ中、アリアナが熱唱した『One Last Time』で再び涙が溢れる。

本来ならば違うイメージを持つ歌詞なんだろうけれど、いまは、テロで亡くなっていった人に向けた歌かのように聞こえる。


One more time

最後にもう一度

I need to be the one who takes you home

君を連れて帰りたいの


まるで、亡くなった人たちをもう一度彼らの家に連れて帰りたい、と言っているようなんだ。 


このコンサートだけでおよそ200万ポンド(約2億8000万円)もの売り上げがあり、そのすべてが寄付されるそうだ。 アリアナはこのあと、マンチェスター市初の名誉市民に選ばれた。

短期間に立て続けにテロが起き、さらなるテロの危険性をはらんでいたイギリスでこの見事なコンサートを成功させ、会場に足を運べない人にもリアルタイムでその模様を提供した彼らを心から尊敬する。

この状況の中でステージに立つ恐怖は、あったと思う。


最後に。 このコンサートでアーティストたちがスピーチした言葉を抜粋して。


必要なのはテロに勝つ、なんていう勇ましい言葉ではなく、まずは自分の隣人を愛し、敬うことだ。

わたしたちは身近な人たちと手を取り合って、そして、生きていくんだ。

人を傷つける行為を断固として拒否する力が、いま必要なんだ。

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